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講義名 24秋 後期/人間学特論~日本の勤労観と地域経営思想~
基準単位数 1
科目区分 企業倫理・経営思想(発展)
必修・選択 選択必修(経営人間学系)
配当年次 1・2年次
学修期間 学修期間1/2学期

担当教員
氏名
◎ 堀 隆一

オフィスアワー eラーニングサイトおよびメールでの質疑応答を受け付けています。
(メールアドレスは大学院グループウェアのアドレス帳でご確認ください)
授業の概要 人間の徳性を養う学問を「人間学」という。倫理・道徳とも通ずるところがある。戦後の教育において義務教育での倫理・道徳は軽視され、形式的なものになってしまい、倫理・道徳心のない人々が大量に社会に出てしまう事態に陥ってしまった。

これは、一般市民のみならず、政治家、経営者、宗教関係者、公務員、教員、法曹関係者、医学関係者等、所謂エスタブリッシュメントと呼ばれる人々までがその惨状の渦中にある。違法だと分かっていても手を染める汚職、刑事罰のみならず株主代表訴訟で財産迄失う企業不正、職を失う様々な不祥事が毎日のように報じられている。

人間学が欠如した人々の増加は、かつて工場運営を担当してきた筆者にとって非常に悩ましい問題であり、それが高じて、「働き方改革」が叫ばれるほどの社会的問題になってきた。本講義ではそこにメスを入れる。

二宮尊徳は「経済なき道徳は寝言であり、道徳なき経済は犯罪である」と述べ、澁澤栄一は「経済道徳一致」を唱えた。資本主義の発展と道徳・倫理は並立しなければ人類は幸福になれない。

幸い、日本は伊弉諾・伊弉冉の神代から勤労の精神が培われ、天照大神によって神道が生まれた。そこに仏教と儒教が加わり、聖徳太子の十七条の憲法によって日本の道徳基盤が成立した。

江戸時代、石田梅岩、上杉鷹山、二宮尊徳を始めとする指導者によって自立性と相互扶助が唱えられ、日本は勤勉革命とよばれる世界に類を見ない新しい価値観を築き上げた。ヨーロッパの産業革命と並び称されるものであった。

明治維新後、サミュエル・スマイルズの「自助論」が日本人に大きな影響を与え、澁澤栄一らによって殖産興業が進められた。日本は経済的にも、産業的にも、軍事的にも大いに発展したが、そこには大きな矛盾点を内包しており、第二次大戦の敗戦に繋がった。敗戦後、アメリカの合理主義が日本に導入され、それを咀嚼した日本は再び発展を遂げた。しかし、利益一辺倒に陥った日本は、二宮尊徳の「道徳なき経済は犯罪である」の状態に陥ると同時に経済発展も滞ってしまった。

日本人は今や、人間としての徳性をも失いつつある。日本人の品性と資質、本来の美しさを、21世紀に呼び戻したい。古き日本のみならず東西の先賢を学び、新しい日本をリードする人材を養成することに貢献したい。本特論には、そのような思いも込めている。それは、単なる懐古主義ではなく、温故知新によるイノベーションに他ならない。

人間学は、宗教、哲学、倫理学等を包含する幅広い学問であるが、本特論では特に古代から現代に至る日本の勤労観と地域経営思想、働き方に光をあてる。
学修目標 本講義の目標は以下の通りである。

1) 日本古来の勤勉論・勤労論を学び、日本人の考え方の特徴を理解し、他国のそれと比較する。日本人の考え方の優れている点を伸ばし、欠点と思われる点を是正するにはどうすべきかを考える。

2) 特に、石田梅岩、上杉鷹山、二宮尊徳を詳しく学び、経営者、政治家に及ぼした影響を考える。戦後教育においてこれら先人の教えは無視されがちになったため、倫理観の欠如に顕れていると考えられる。江戸時代の先人の考え方は、西洋の「産業革命」に比類すべき「勤勉革命」とも言われている。この日本の「勤勉革命」を理解する。

3) サミュエル・スマイルズの「自助論」を読み、ピュータリズムの勤勉性を学習する。日本社会の例を挙げ、イギリス社会との共通点を考える。

4) なぜ日本でQCサークル活動が成功したのか?近年下火になった理由を考え、自主管理活動の重要性を理解する。QCサークル活動を含めた自主管理活動の陥りやすい失敗を考え、それを防止する方法を議論する。

5) なぜ日本で様々な不正が絶えないのか。具体例から考える。江戸時代にも明治以降も不正はあった。戦後、特に近年それが大問題になった背景と対策を考える。

6) 「働き方改革」がなぜ叫ばれ、どうしようとしているのか。その方策の問題点は?労働生産性を無視した「働き方改革」は社会の沈滞を招くと考える。夢ある社会を目指すために重要なのは、働きがいを如何に保持するかである。「働きがい改革」を提案する。

1)~6)を講義することによって、「働き方改革」と共に、労働生産性の向上も同時に目指す、「働きがい改革」を議論し、新しい価値観を創出することを目的とする。
授業計画(各章)
第1回
タイトル
第1章 神代・古代日本の勤労・勤勉観
内容
担当教官の堀が、人間学に目覚めた理由と、それを実社会でどのように研鑽発展させてきたかを述べる。そして日本人が古代から近代社会まで人間学をどのように発展させてきたかを講義する。
まず、神代の時代や聖徳太子時代の日本の労働観を論じる。神道、仏教、儒教の影響を受けた聖徳太子の国家観は「十七条の憲法」として成文化された。現代の日本人の精神土壌に大きな影響を残している。現代日本人の考え方がどのように日本古来の倫理観に影響を受けているかを考える。
第2回
タイトル
第2章 石田梅岩の勤労観
内容
石田梅岩は神・仏・儒を独学で学び、「人間いかに生きるべきか」を追求した。人間には、具えるべき道徳が必要であり、その基本は五倫(親子に「親」、君臣に「義」、夫婦には「別」、長幼に「序」、朋友に「信」)である。これを知り、行うことが学問であると唱えた。梅岩は日本で初めて商人道を唱えたが、 現代経営の商人道・倫理観を再検討する。
第3回
タイトル
第3章 上杉鷹山の勤労観
内容
財政破綻した米沢藩に小藩から養子入りした上杉鷹山は、領民を愛する事、教育を重視する事、自助努力を推奨し、近隣による共助、そして最後には藩による公助を方針とした。身分にかかわらず殖産興業に努め、財政再建を成功させた。現在政治問題にもなっている自助、共助、公助について考察する。
第4回
タイトル
第4章 二宮尊徳の勤労観
内容
二宮尊徳は自家の再建から各地の再建を進めるに当たって、積小為大、一円融和を基本方針に至誠・勤労・分度・推譲のサイクルで農村の活性化を果たした。その方法は報徳仕法と呼ばれ、現代のQCサークル活動に繋がっている。二宮尊徳の報徳思想を各自の問題点にどのように活用するかを学ぶ。
第5回
タイトル
第5章 サミュエル・スマイルズ「自助論」と 澁澤栄一
内容
サミュエル・スマイルズの「自助論」は明治初期の日本人を奮い立たせた書物である。国家の盛衰は国民一人ひとりの人格次第であることを説き、私たちに刻苦勉励を勧めた。勤労を惜しまず、辛苦を厭わず、人を頼らずに自分自身の努力で志を果たすことを教えている。澁澤栄一は青年時代にヨーロッパを見聞し、西洋資本主義を日本に取り入れ、経済道徳合一を説いた。近代日本繁栄の礎を築いた。スマイルズの思想が現代でもどのように活用されるか考える。
第6回
タイトル
第6章 QCサークル活動について
内容
戦前の日本産業は品質意識が乏しかったため、GHQはアメリカのデミング博士を招聘して意識改革を図った。日本企業はそれをQCサークルに発展させ、QC七つ道具を駆使してPDCAサイクルを回し、世界に冠たる低価格・高品質の工業製品を産み出した。QCサークル活動の功罪を論じ、QCサークル活動をさらに発展させるには何をすべきか考える。
第7回
タイトル
第7章 頻発する品質不良と不正まとめ
内容
バブル崩壊後、日本企業は不正行為が頻発し、品質捏造も見られるようになった。さらに一部の職場での過労死も座視できない状態に陥り、賃金は20年以上伸び悩む状態である。なぜそのような状態になったのかを考える。近年、「働き方改革」が唱えられているが、政府方針だけでは不十分で、「働きがい」を育む社会を受講生と共に考える。
受講上の留意点 大学の既定のスケジュール通りに遅延なく受講してください。
成績評価基準 ・出席率  20%
・各章課題 35%
・期末課題 45%
必読書籍 ① 『代表的日本人』:内村鑑三著 岩波文庫 1995年 他社からも多くの出版あり。
② 『論語』:金谷治訳註 岩波文庫 1999年 他社からも多くの出版あり
参考書籍 ① 『大学・中庸』 金谷治訳註 岩波文庫 1998年 他社からも多くの出版あり
② 『孟子』 小林勝人訳註 岩波文庫 1968年 上下2巻 他社からも多くの出版あり
③ 『荀子』 金谷治訳註 岩波文庫 1961年 上下2巻 他社からも多くの出版あり
④ 『老子・荘子』 小川環樹,森三樹三郎訳註 中央公論社 1968年 他社からも多くの出版あり
⑤ 『菜根譚』 洪自誠著 今井宇三郎訳註 岩波文庫 1975年 他社からも多くの出版あり
⑥ 『言志四録』 佐藤一斎著 川上正光著 講談社学術文庫 1978年 全4巻 
⑦ 『原始仏典』 中村元著 ちくま学芸文庫 2011年
⑧ 『風姿花伝・三道』 世阿弥著 竹本幹夫訳註 角川ソフィア文庫 2009年 他社から多くの出版あり
⑨ 『古事記』 倉野憲司訳註 岩波文庫 1963年 他社からも多くの出版あり
⑩ 『修身教授録』 森信三著 致知出版 1989年
⑪ 『聖徳太子』 坂本太郎 吉川弘文館人物叢書 1985年
⑫ 『日本の名著 二宮尊徳』(報徳記、二宮翁夜話他) 児玉幸多他訳註 中央公論社 1970年 
⑬ 『人生の五計』 安岡正篤著 PHP文庫 2005年
⑭ 『活眼活学』 安岡正篤著 PHP研究所 1986年 文庫本も出版あり
⑮ 『運命を開く 人間学講話』 安岡正篤 プレジデント社 1986年 新装版もあり
⑯ 『人生の短さについて』 セネカ著 大西秀文訳 岩波文庫 2010年
⑬ 『幸福論』 アラン著 神谷幹夫訳 岩波文庫 1998年
⑭ 『幸福論』 ヒルティ著 草間平作他訳 岩波文庫 1961年
⑮ “Self-Help ”Samuel Smiles The Project Gutenberg eBook Webから閲覧できる。和訳は『西洋立志編』 中村正直訳 講談社学術文庫、『自助論』 竹内均 三笠書房 など
⑯ 『人を動かす』 デール・カーネギー著 山口博訳 角川書店 1999年
⑰ 『道は開ける』 デール・カーネギー著 香山昌訳 角川書店 2016年
⑱ 『日本を作った12人』 堺屋太一著 PHP文庫 2006年
⑲ 『立命の書『陰騭録』を読む』 安岡正篤 致知出版 2011年
⑳ 『あなただけの般若心経』 中村元監修 阿部慈園著 小学館 1990年
㉑ 『QCサークルの基本~QCサークル綱領~』 QCサークル本部編 日本科学技術連盟 1970年
㉒ 『聖徳太子~和のこころの真実~』 産経新聞取材班 浪速社 2023年
その他 特にありません。
事前学修・発展学修 事前学修:
この講座の原点は、人間学にあり、人間の徳性を学んでそれを実際の社会生活にどう生かすかという点にある。日本人の倫理観に最も大きな影響を与えたのは儒教であり、そのエッセンスは「論語」に集約されている。事前学習として「論語」に目を通していただきたい。それと、歴史上の偉人の考え方も知ってほしい。もし可能ならば内村鑑三著の「代表的日本人」にも読んでいただきたい。

発展学修:
人間学を基本とした「勤労観」を学んだのでそれをどう生かすかが、今後の課題になる。他人を思いやり(忠恕)、正直に(誠実)、そして世の中の発展に寄与するためには、参考図書に掲げた書物を読まれることを薦めます。新聞紙上を賑わしている様々な不正、横暴、倫理観の欠如に関する記事を読み、自分ならどうするかを常日頃から考えていただきたい。
対面授業
対面授業は実施しません。