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講義名 23春 通期/ビジネス紛争処理法
基準単位数 2
科目区分 経営数理・問題解決(応用)
必修・選択 選択
配当年次 1・2年次
学習期間 学習期間1学期

担当教員
職種氏名
教授◎ 小林 秀之

オフィスアワー eラーニングサイトおよびメールでの質疑応答を受け付けています。
(メールアドレスは大学院グループウェアのアドレス帳でご確認ください)
授業の概要 法律システムと紛争解決システムの概要を説明するので、内容はかなり多岐に及びます。ビジネスの視点から整理はするものの、民法(商法の一部を含む)、民事訴訟法、会社法、種々の紛争解決手段、交渉理論まで広範にわたります。
しかし、この授業をマスターできれば、紛争解決の極意が分かると同時に、最新の法事情(民法改正など)まで分かります。
ビジネスにはトラブル処理やクレーム処理はつきもので、経営者といえども一通りの法知識と紛争解決・紛争処理のあり方を知っていることが必要です。
本授業では、法律システムの全体像をビジネスの観点から説明します。特に民法改正は最近の話題ですが、極めて重要な法知識です。民法は得意だと思っていたら、大改正の結果、持っている知識は間違っていることもありえます。
法律や紛争処理を超えて、ビジネスで最も必要な能力は交渉能力です。最近は交渉理論も進み、この授業で交渉能力を身につければ、毎日のビジネスも大きく変わってくるでしょう。
ビジネスの紛争解決では、民事訴訟は最後の手段で、他の方法、たとえばADRなども利用されます。調停が十分に活用できると良いのですが、家事調停と異なり、民事調停はわが国では十分に機能していません。
民事訴訟は、ビジネスの紛争処理では最後の手段ではありますが、民事訴訟になればどうなるのか知っておくことは、民事訴訟以前の段階でも極めて重要です。
最後に、コーポレート・ガバナンスとよく言われますが、それを実現する手段の一つが、株主代表訴訟です。経営者はこれによってすべての財産を失いかねませんので、経営者として必ず理解しておきたいポイントです。
近い将来にはオンラインでAIを使って紛争を解決する時代になりますが、それらを駆使するにはこの授業での知識は必須です。
学習目標 ビジネス紛争処理を学ぶことによって、日々のビジネスが円滑に進むようになることはもちろんです。それだけにとどまらず、社内でトラブル処理やクレーム処理をめぐってなされる議論が理解でき、リードすることもできるようになるでしょう。
契約の締結にあたって、法務部が多くのポイントを指摘してきますが、その意味が十分分かれば、法務部も相手方にも説明し説得することもできるようになるでしょう。
上記は、ミニマムの学習目標ですが、視点を変えると、新しいビジネスの立ち上げ(起業)も視野に入ってきます。クレーム処理を外注化する動きはアメリカでも起きていますが、グループ全体のクレーム処理をグループ全体の目標に沿って行うというのであれば、十分独立した会社を起こすことができます。
また、アメリカではADRが次々に立ち上げられ何百、何千という数になっていますが、これは公的ADRではなく、私的な紛争解決機関で、一大ビジネスになっています。我が国の民事調停が不活発だとすると、それに一部代わる私的な紛争解決機関を立ち上げることも可能ですし、家事調停が隆盛を見ているのであれば、家事紛争の処理を支援するビジネスも面白いかもしれません。非弁活動にならないよう(弁護士法72条参照)、専門家と十分に相談してプランを立てる必要があります。
また、本授業は我が国を対象にしていますが、東南アジアなどへの進出を目指す場合には、本授業のようなスタイルで対象国の法と文化を研究してみることが絶対に必要です。
授業計画 この演習科目は、期間半年間(1学期)で2単位の授業です。
通常のビデオによる授業と対面授業が混在しています。第6章と第12章が対面授業です。

第1章
・授業の概要と法律システム及び紛争解決システムの全体像
法律システムというと、「六法」を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、ビジネスに関係する民法、商法、民事訴訟法がどのような内容でどのように結びついているかはあまり知られていません。しかも、その他に会社法、倒産法、独禁法、金商法…となると、どれが適用されるのか複雑すぎるという感想を持つ人がほとんどだと思います。実は各法律が有機的に関連しているので、まずその仕組みを知ってほしいのです。
ビジネス紛争処理も、裁判を起こそう、民事訴訟を提起だというのは最後の手段であり、交渉から始まるのが普通です。交渉理論も最近はかなり高度になっていて、知らないと交渉段階で負けてしまいます。他にも、ADRと呼ばれる簡単な紛争解決システムが増加しています。

第2章 
・交渉理論
誠意をもって交渉にあたれば良いとか、逆に交渉は少しはったりがあった方が良いとか思っている人が多いかも知れませんが、現在の交渉理論からすると、すべて間違いです。
どの範囲ならば交渉はまとまるのか(ZOPA)、交渉が決裂した場合の手段(BATNA)は何か、ウィンウィンの関係を樹立する統合的交渉は可能かなどを考えながら交渉する必要があります。

第3章 
・交渉の技術
誰しも交渉技術を向上させたいと思うでしょう。交渉理論の本を何冊も読むだけではなく、ロールプレイやケース・スタディが有益です。最も有益なのは、十分知識をつけた後の実践であるのですが、ケースバイケースのことも多くなかなか身につけるのは難しいと言えます。
交渉においてファーストオファーをどちらがすべきか(自分にとって有利か)という基本的な交渉技術ですら結構難しいことに、びっくりされるでしょう。相手方の考えていることが分からないという観点からは、相手方にまずさせるべきということになりますが、自分が交渉のコントロールを握りたいという観点からは自分からすべきことになります(交渉理論では「アンカーリング(錨をおろす)」と呼びます)。

第4章 
・交渉からADR
ADRとは何か(民事訴訟との比較)
現在では訴訟によらない紛争解決方式であるADRが隆盛をみています。調停や金融ADRに始まり、国際仲裁に至るまで多くのADRがありますが、各々民事訴訟よりも簡便な紛争解決を目指しています。各ADRの特徴を理解することが、ADRの利用にあたって必要不可欠です。ADRは民事訴訟と異なり、必ず応じなければならないことはありませんが、まとまると拘束力を持つことが普通です。

第5章
・訴訟と非訟
相続や離婚など非訟事件は意外に身近なものでもあります。
家事事件や商事事件(M&Aなど)では非訟によって紛争解決します。訴訟との違いを対比しながら理解しましょう。

第6章 対面授業
ここまでの内容を確認し、参加者全員で討議する予定です。7章以降の内容も簡単に説明します。
交渉のやり方がどうすればうまくなるか、ADRの利用の仕方、上手な紛争解決法を全員で考えてみたいと思っています。

第7章
・訴訟物と処分権主義
民事訴訟を提起するには、訴訟物は何とするかを考える必要がありますが、処分権主義に従いどこまで請求するかを決めます。
意外に理論的なのですが、世界的傾向としては紛争を訴訟物とする新理論ですが、わが国は法的権利とする旧理論です。
どちらが良いか考えてみましょう。

第8章
・弁論主義
民事訴訟の審理は、当事者が提出する資料に限る弁論主義が適用されます。
民事訴訟で必要な資料はすべて皆さん方当事者が提出することになっており、資料を集めるのが大変で証拠収集も問題になってきます。

第9章
・証明責任
日常生活や商取引でも常に問題になるのが、どちらが証明するかという証明責任です。民事訴訟では証明責任がどちらにあるかを常に意識しながら展開します。どちらが正しいか不明という話は、頻繁に出てきますが、どちらが証明すべきかを考えてみることは大切です。

第10章
・判決と既判力
民事訴訟で判決が下された場合、判決の効力(既判力)の範囲がどこまでかが問題になってきます。既判力の範囲は訴訟物とパラレルなのですが、わが国の考え方では、紛争全体が解決されない恐れがあります。

第11章 
・証拠収集と和解
和解と解決
民事訴訟は半分以上の事件が和解で終了しています。判決の解決内容はどうかを横目でにらみながら、裁判官も当事者も和解の可能性を探るのが普通です。
判決主文だけみても内容がはっきりしないことも多く、訴訟物は何か、既判力や執行力はどう生じているかを考える必要があります。
実際の事件は、証拠で決まりますので、証拠をどう収集するかは重要です。

第12章 対面授業
ここまでの内容を確認し、参加者全員で討議する予定です。13章以降の内容も簡単に説明します。
民事訴訟が分かれば、法の世界全体が見えてきます。

第13章
・債権者平等の原則と民法
民法の大原則の1つで倒産法にも貫なる債権者平等原則を軸に、民法の全体像を学びます。

第14章
・法の国際化と国際取引紛争
法が国際化したために国際取引をめぐる紛争が頻発しています。どこの国で裁判されるか、外国の判決の効力はわが国に及ぶかなどを学んでいきます。

第15章 
・株主代表訴訟とコーポレート・ガバナンス
会社の最大ポイントは、コーポレート・ガバナンスです。ガバナンスが悪いと監督官庁(金融庁など)にしかられるだけでなく、株主代表訴訟を提起されることにもなりかねません。
株主代表訴訟は、一単位株所有の株主でも提起でき、会社に提訴請求して会社が応じなければ、役員等に対して直接請求できます。役員は個人で防御しなければならないし、敗訴すれば私財から支払わなければならないのです。
受講上の留意点 対面授業にはできる限りご参加ください。各章ディスカッションには必ず参加して下さい。
成績評価基準 ・対面授業:20%
・各章ディスカッション:40%
・期末レポート:40%
必読書籍 小林秀之編著「新法学講義 民事訴訟法」悠々社2012年
上記の書籍はすべて著者割引で入手できます。
参考書籍 小林秀之編著「判例講義民事訴訟法 第3版」悠々社2016年
小林秀之ほか編著「証拠収集の現状と民事訴訟の未来」悠々社2017年
小林秀之著「新ケースでわかる民事訴訟法」日本評論社 2021年
小林秀之編著「交渉の作法」弘文堂2012年
小林秀之著「新法学ライブラリ・民事訴訟法 第2版」新世社2022年
上記の書籍はすべて著者割引で入手できます。
その他 各章の講義動画は、公開された週の週末までには視聴するようにしましょう。
対面授業に向けた準備をしっかり行うためには、各章の内容をしっかり理解するための時間が必要です。
対面授業での報告やレポート作成のための作業などをいつ行うのかも、重要なポイントです。
対面授業
対面授業を実施します。受講申込の際は「対面授業スケジュール」にて日程をご確認ください。