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講義名 24春 後期/孫子に学ぶ経営戦略
基準単位数 1
科目区分 戦略・マーケティング(発展)
必修・選択 選択必修(経営人間学系)
配当年次 1・2年次
学習期間 学習期間1/2学期

担当教員
氏名
◎ 横山 成人

オフィスアワー eラーニングサイトおよびメールでの質疑応答を受け付けています。
(メールアドレスは大学院グループウェアのアドレス帳でご確認ください)
授業の概要 世界最古で最高の戦略書と評される「孫子の兵法」は、これまで多くの歴史上の偉人が学び活かしてきました。現代においても、軍事専門家だけでなく、経営者をはじめ多くの人が学び、仕事に、経営に、人生に活かしています。「孫子」には、大きく分けて「現行孫子」と「竹簡孫子」の2種類が存在しますが、この授業では、1972年に発見され、著書の孫武の思想が色濃く残っている「竹簡孫子」を取り扱います。
進め方としましては、「孫子の兵法」が目指す勝利の形や戦い方といった大枠を理解してから、戦略・戦術における哲学テーマを顕らかにし、各篇の内容である細部を掘り下げていきます。歴史上の戦争・政治や松下幸之助などの哲人経営者、スポーツ等を事例として紹介します。
最終的には、全体像や各篇のつながりを理解し、物事を長期的・多角的・本質的に捉える東洋的な視点で戦略を考えられる能力を身につけることができるようになります。
学習目標 1)「孫子兵法」が求める理想的な勝利の形やライバルとの戦い(競争)の進め方を説明することができる
2)「孫子兵法」の知識を使って数値化できない要素からビジネス上の判断をすることができる
3)陰陽相対(待)性理論を理解し、戦略(兵法)には「正(陽)」と「奇(陰)」の2つの戦い方があることを説明することができる
4)組織を結束させ「勢い」を作り出す方法を理解し説明することができる
5)事業が苦境に陥り、ライバルに対して劣勢になった時に打開する方法を説明することができる
6)戦う組織に必要なトップと補佐役(将軍など現場のリーダー)の関係を理解し説明することができる
授業計画 期間は4半期で、1単位の授業です。全7章で構成されています。

第1章では、2種類の「孫子」である「現行孫子」と「竹簡孫子」の特徴とその違いを知り、「竹簡孫子」から読み解ける理想的な勝利の形や戦いの進め方を理解します。「竹簡孫子」は君主の視点、「現行孫子」は軍人の視点(軍人の視点で改良を加えた)であり、「竹簡孫子」を学ぶことでトップ視点の戦略を学ぶことができます。
「竹簡孫子」は、東洋思想の土台である陰陽相対(待)性理論(自然法則)との整合性があることから、松下幸之助などの哲人経営者が行った「自然法則と合致する経営」と共通項を発見することができます。偉大な経営者の経営と「孫子」の兵法理論の繋がりを理解することで、「孫子」が経営の原理原則として使えることを理解します。

第2章では、第1章で述べた理想的な勝利の形と戦いの進め方について、竹簡孫子の形篇第四、勢篇第五、虚実篇第六の記述から学びます。
「形」と「勢」を陰陽で分類すると、「形」は戦力充実の静(陰)の姿であり、「勢」は戦力充実の動(陽)の姿になります。「形」を構築することが戦力を高める基本になります。「虚実」は、戦いの駆け引きの結果、敵と味方の間に戦力の密度差を作ることです。「形」と「勢」と「虚実」は密接につながっており、その関係を理解しながら、「奇」(奇策/戦力の分散)と「正」(定石/戦力の集中)の2種類の行動によってどのように変化させることができるのかを学びます。

第3章では、目指すべき勝利「戦わずして勝つ」について掘り下げます。計篇第一、作戦篇第二、謀攻篇第三を紹介します。
目指すべき勝利を「孫子」では「全きの勝利」(戦力保全)と表現しています。避けるべきは「破の勝利」と捉え、この二者を分けて考えることで新たな視点を得ることができます。戦闘行為による勝利ではなく敵の戦略目標を頓挫する「謀」を攻めることが「全きの勝利」の土台になります。また、戦争は、軍事力の衝突といった表面的な事象だけでなく、国家経済、国民の家計などの目に見えない内部要因があり、多重構造になっているのが特徴です。国家財政や国民の家計が尽き果てれば、軍隊が存続しながら戦いに負けることになります。国家財政を左右するのは、物資の輸送と戦争の期間といった変数を計算することが重要になります。作戦計画の立案は予め勝算があるかどうかを見極めることが重要ですが、「五事」といわれる経国の五要素と「七計」といわれる比較項目を使います。目に見える表面だけを比較するだけなく、裏側まで見抜くことで確実性の高い勝算を導き出すことができます。

第4章では、戦いの駆け引きを掘り下げていきます。軍争篇第七、九変篇第八、行軍篇第九を紹介します。
戦いを有利に進めるためには主導権争いに勝つ必要がありますが、闇雲に行動することで主導権を得ようとしても上手くいきません。武道における「後の先」のように後から動いて相手を制する方法として「迂直の計」を紹介します。
また中国兵法の特徴の一つともいえる「物事の利と害をひっくり返すことで、相手の優勢を劣勢に変える方法」に言及します。実際に軍隊を動かして、地の利を得て敵の状況を洞察して、最終的に敵を詰む(将棋における投了させる)「必取」と、そこに至るまでに一連の流れを理解します。

第5章では、君主にとっての幹部、将軍と間者(スパイ)の使い方を学びます。
「竹簡孫子」は、君主の視点で書かれておりますので、君主の立場から将軍との関係やその使い方を学ぶことができます。君主と将軍にはあるべき関係があることを知り、実行部隊である将軍の使い方や能力の見抜き方を、計篇第一、謀攻篇第三、地形篇第十、九地篇第十一から紹介します。また、君主は将軍だけでなく、情報集中を任せる間者(スパイ)も使いこなさないといけません。その方法として用間篇第十二を紹介します。戦いは情報戦であり、優秀な人間に情報を収集させることが求められます。

第6章では、兵法の応用編として、「正」の兵法(地形)と「奇」の兵法(九地)を学びます。
「正」の兵法は、自軍の優勢を構築し維持する戦い方です。「奇」の兵法は、劣勢を跳ね返して勝利する方法です。
「正」の兵法は、間違いを見抜くこと、及び間違いを犯さないことで、地形篇第十からその内容を紹介します。
「奇」の兵法は、劣勢をひっくり返すことで、大きく2つの方法があります。一つは死地に身を投じて火事場のバカ力を出すこと、もう一つは敵が油断をするまで下手に出ることです。劣勢をひっくり返すためには、敵地で戦う客戦と自地で戦う主戦における地形特性の変化を利用することが前提になります。

第7章では、戦いの始め方と終わらせ方の見識を学ぶことができる火攻篇第十三を紹介します。戦争は火を起こすように電撃的に始めますが、火が燃え広がりすぎると収拾がつかなくなるように、戦争を終わらせられなくなります。欲望の炎、怒りの炎によって戦争をコントールできなくならないように、君主と将軍が自戒し、戦争を早期に終わらせることを説きます。
また、自然の働きは常に変化し、物事は循環することを兵法に活かす方法を深掘りします。自然の巡りと兵法の「奇正」について、勢篇第五と虚実篇第六の記述から理解を深めます。最後に、全体の構成とつながりを復習し、俯瞰して理解できるようにします。経営や政治、スポーツや人生、さまざまなテーマにおいて、孫子を活用する方法を学びます。
受講上の留意点 大学の既定のスケジュール通りに遅延なく受講してください。
成績評価基準 ・出席率: 15%
・ディスカッション参加:15%
・提出物(小テスト):30 %
・最終課題: 40%
必読書籍 孫子本文の書き下し文・現代訳、及び図解は、講師が作ったものを配布いたしますので、それらを読んでください。
参考書籍 「孫子」(浅野 裕一著)‎ 講談社
「孫子兵法発掘物語」(岳 南著、加藤優子著)‎ 岩波書店
「易と人生哲学」(安岡正篤著)致知出版社
「戦わずして勝つ孫子兵法―その科学的体系と思想を講む」(武岡淳彦著、 佐野寿龍著)拓心観
その他 必要な事項があれば、随時、お知らせいたします。
なお、本講座では、「孫子兵法」を経営や戦略立案など、ビジネスで活用できるようになることを目的にしておりますので、「孫子」を第一篇から順番に扱いませんので、あらかじめご了承ください。

各章終了後のテストでは、大学院では自主的な学びが求められるため、授業の関連事項について自分で調べて回答する問題も出る場合もあります。出題されてもわずかな量になりますが、「授業で聞いていないので分からない」というようなことがないようにお願いします。
その他として、最終課題におきましては、生成AIによる回答や、サイトの記事、参考文献などの文章をそのまま転載することはしないようにしてください。「盗用」となる恐れがあります。「引用」のルールを遵守されてください。また、出典は必ず明記してください。
対面授業
対面授業は実施しません。